「相場が止まったあと、そろそろ大きく動くのではないか」

チャートを見ていると、誰でも一度はそう感じる場面があります。ローソク足の値幅が細くなり、上下どちらにも走らず、出来高やtickも静かになる。いわゆる低ボラ・停滞の状態です。

では、Goldでは本当に低ボラのあとに値幅が出やすいのでしょうか。今回はXAUUSDの購入データ内に含まれるMT4 M15 OHLCとtick volumeを使い、低ボラ入りした場面だけを抜き出して検証しました。

低ボラ後は絶対値としては動きます。ただし、全体平均との差で見ると「低ボラだから特別に動きやすい」とは言えず、むしろ値幅拡大は遅い側に出ました。

追記:初回公開時はデータ表記と検証条件に不正確な部分があったため、再確認後のデータで記事内容を更新しました。本記事はraw tickの完全復元ではなく、購入データ内のMT4 M15 OHLCとtick volumeを使った観察統計です。

低ボラ後、値幅拡大は多く観測された
高安値幅が観測時点の基準値幅1本分以上になった割合
39.9%
30分
75.8%
60分
97.3%
120分
Gold / XAUUSD、購入データ内のMT4 M15 OHLCとtick volumeを使用。低ボラ入りした最初の足だけをサンプル化。

検証条件

対象Gold / XAUUSD
データ購入データ内のMT4 M15 OHLC
出来高MT4 tick volume
期間2020-07-01 01:00 〜 2026-04-24 23:45 server time
tick volume合計329,572,185
M15足数137,413本
低ボラ定義直近8本のM15平均値幅 / ATR(96) <= 0.55
サンプル条件低ボラ条件が false から true に切り替わった最初の足だけを採用
サンプル数1591件
比較対象114,741件

ここでいうtick volumeは、実際の約定出来高ではなくMT4足に記録されたtick volumeです。また、データ取得、時刻変換、集計ロジックの扱いによって結果が変わる可能性があります。

同じ停滞が何本も続いた場合に毎回カウントすると、似た場面を重複して数えやすくなります。今回はそれを避けるため、低ボラ入りした最初の足だけをサンプルにしています。

先に、この検証で確認したくなること

この検証を見ると、重要な疑問が出ます。平常時の値幅拡大率、つまりベースラインと比べるとどうなのか。

たとえば低ボラ後の60分拡大率が75.8%だったとしても、通常時はもっと高い割合で拡大しているかもしれません。もし通常時も同じか、それ以上に動いているなら、低ボラ条件そのものに特別な意味があるとは言えません。

そのため、この記事の最初の検証は、「低ボラ後に値幅拡大が多く観測された」という観察メモです。統計的な優位性を確認するには、全M15足やランダム抽出サンプルとの比較が必要です。この疑問については、記事の最後に追記で追加検証を載せています。

低ボラ後は、時間が経つほど値幅拡大が多く観測された

経過時間サンプル値幅拡大率上方向優勢下方向優勢継続だまし
30分159139.9%51.6%48.3%31.0%6.9%
60分159175.8%51.9%48.1%55.2%15.7%
120分159197.3%52.4%47.6%73.6%19.1%

30分では値幅拡大率が39.9%。60分では75.8%。120分では97.3%まで上がりました。

ここでいう値幅拡大は、観測時点のATR(96)に対して、将来の高値から安値までの値幅が1本分以上になったかどうかです。今回の低ボラサンプル内では、低ボラ入りした直後よりも、少し時間を置いたほうが値幅拡大は多く観測されました。

これは新発見というより、ボラティリティの平均回帰として自然

低ボラのあとに値幅が戻りやすいという見方は、相場の世界ではまったく新しい話ではありません。ボラティリティには、低い状態や高い状態が続きやすい一方で、極端な状態からは平均的な水準へ戻ろうとする性質があります。

今回の結果も、いわゆるボラティリティのクラスタリングや平均回帰と整合的に見えます。つまり、「低ボラを見つけたら特別な秘密がある」というより、既知の相場特性がGoldのM15データでもどの程度見えるのかを確認した検証です。

代表チャート:伸びるケースと、戻されるケース

数字だけを見ると「値幅が出るなら使いやすそう」と感じますが、実際には伸びるケースと、動いたあとに戻されるケースがあります。低ボラ後の値動きは、方向の答えではなく、次の反応を注意深く見る合図として扱うほうが自然です。

continuation example 1: 2024-02-02 14:30 / range 10.6856 ATR / down 2025.2 2033.9 2042.6 2051.3 2059.9 2024-02-02 08:30 2024-02-02 14:30 2024-02-02 17:30 green band = low-vol window dashed line = observation point
継続例。低ボラ帯のあと、値幅が拡大し、そのまま一方向へ伸びたケース。
fake example 1: 2025-05-23 02:45 / range 3.6217 ATR / down 3285.3 3291.6 3298.0 3304.3 3310.6 2025-05-22 19:45 2025-05-23 02:45 2025-05-23 05:45 green band = low-vol window dashed line = observation point
だまし例。値幅は出たものの、最終的には戻されており、方向の決め打ちが危険なケース。

意外だったのは、方向がほぼ五分五分だったこと

今回の検証で一番大事なのはここです。60分後の上方向優勢は51.9%、下方向優勢は48.1%。120分でも上方向52.4%、下方向47.6%でした。

低ボラ後は絶対値としては動く。しかし、どちらに動くかまでは、この条件だけでは弱い。

これは実践的にはかなり重要です。低ボラを見つけた瞬間に方向を決め打ちするよりも、「まだ停滞が残っている可能性がある」と考え、上位足の環境、節目、直近高安、ニュース、tick volumeの変化を合わせて見るほうが自然です。

時間帯別は参考値。分けるほどサンプルは薄くなる

時間帯サンプル60分拡大率継続だまし
Europe 07-12 UTC9478.7%43.6%26.6%
NY 13-20 UTC8063.8%50.0%11.2%
Other 21-23 UTC43480.4%57.8%16.4%
Tokyo 00-06 UTC98374.5%55.6%14.6%

時間帯別では、Other 21-23 UTCが80.4%、欧州時間が78.7%、東京時間が74.5%、NY時間が63.8%でした。ただし、NYは80件、欧州も94件で、分けるほどサンプルは薄くなります。

これはあくまで参考値です。時間帯そのものを理由にするより、低ボラがどの市場参加者の時間帯で発生しているかを確認するための補助材料として見るのが自然です。

曜日別も参考値。強く見える曜日ほど慎重に見る

曜日サンプル60分拡大率継続だまし
Fri36674.6%54.1%16.1%
Mon28474.6%49.3%18.0%
Thu32874.1%56.7%12.2%
Tue28080.7%65.0%13.6%
Wed33375.7%52.0%18.3%

曜日別では火曜が80.7%でやや高めでした。ただ、曜日別の差はサンプル分割と多重比較の影響を受けやすく、偶然強く見える組み合わせが出ることがあります。

ただし、曜日別の差は多重比較の影響を受けやすく、偶然強く見える組み合わせが出ることがあります。曜日そのものを理由にするより、低ボラがどの市場環境で発生しているかを確認するための参考材料として見るのがよさそうです。

「極端に小さい値幅」だけでは強くならなかった

条件サンプル60分拡大率継続だまし
極端な圧縮 <= 0.4 ATR17072.4%55.9%13.5%
低tick数 <= p40137977.2%55.7%16.4%
直近32本の高値/安値に近い20678.2%60.7%13.1%
低tick数 + 高値/安値に近い18279.7%61.0%13.7%

ここも面白いところです。極端な圧縮、つまり「かなり値幅が小さい状態」だけを見ると、サンプルは170件で拡大率72.4%でした。低ボラ全体の75.8%より強くなっているわけではありません。

一方で、低tick数 + 直近32本の高値/安値に近いという条件では、60分拡大率が79.7%、継続率が61.0%でした。ただしサンプルは182件です。単に小さく固まっているだけではなく、参加者が少ない状態で節目付近まで来ている場面のほうが次の値幅につながりやすい可能性はありますが、追加検証なしに強い条件とは見ません。

実践で使うなら「方向予測」ではなく「警戒フィルター

この検証結果をトレードに活かすなら、低ボラをそのままエントリー条件にするより、次のような使い方のほうが現実的です。現時点では、優位性が証明された条件ではなく、相場観察のチェック項目として扱います。

たとえるなら、低ボラは「静かな部屋」そのものです。静かな部屋だから右へ走る、左へ走る、とは言えません。ただ、誰かがドアを開けた瞬間に音が響きやすい状態ではあります。

大事なのは、静かさを方向の根拠にしないことです。静かになったあと、どの節目で、どの市場時間に、どんな参加者の変化が出たのか。そこまで見て、初めて見立ての材料になります。

避けたい使い方

値幅が出やすいことと、利益にしやすいことは別です。 値幅が出る場面ほど、だまし、逆行、スプレッド拡大、約定ズレも起こりやすくなります。

追記:ベースラインと比べると、見方が変わった

ここまで読むと、自然に疑問が出ます。「低ボラ後60分で75.8%が値幅拡大した」と言っても、普通の時は何%なのか。もし平常時のほうがもっと動いているなら、低ボラ条件そのものに特別な意味はありません。

そこで、追加で全対象M15サンプルと比較しました。対象は、将来120分まで連続した足が確認できる全M15足、114,741件です。

経過時間低ボラサンプル低ボラ後の拡大率全対象サンプル平常時の拡大率
30分159139.9%114,74169.7%-29.8pt
60分159175.8%114,74191.0%-15.3pt
120分159197.3%114,74198.8%-1.5pt

結果は、かなり重要です。低ボラ後の60分拡大率は75.8%でしたが、全対象サンプルでは91.1%でした。つまり、この定義では低ボラ後は絶対値としては動いているものの、平常時と比べるとむしろ値幅拡大率は低いという結果になりました。

30分でも、低ボラ後39.9%に対して平常時69.7%。120分でも、低ボラ後97.3%に対して平常時98.8%です。特に30分と60分では差が大きく、低ボラ直後は「すぐ動く」というより、まだ停滞が残りやすい可能性があります。

この追記によって、この記事の結論は少し変わります。低ボラ後はいつか値幅が出ることは多い。しかし、平常時より動きやすいとは言えない。 むしろ今回の条件では、短期的には平常時より値幅拡大が起きにくい側に出ています。

なので実用面では、「低ボラになったからすぐ狙う」ではなく、低ボラ解除後に、どのタイミングで参加者が戻ってくるかを見るほうが重要です。低ボラそのものはエントリー材料ではなく、次に出来高、tick、節目抜け、戻り方を観察するための前段階と考えたほうが自然です。

この追記は、低ボラ条件の価値を否定するためではなく、見方を正確にするためのものです。ベースラインを置くことで、「数字が大きく見えること」と「本当に相対的な偏りがあること」を分けて考えられます。

まとめ

今回の検証では、Goldの低ボラ停滞後、60分以内にATR1本分以上の値幅拡大が起きた割合は75.8%でした。120分では97.3%まで上がっています。

一方で、方向はほぼ五分五分でした。さらにベースライン比較では、全対象サンプルの60分拡大率が91.1%だったため、低ボラ後75.8%は平常時より低い結果でした。つまりこの条件は、売買方向を決めるものでも、単独で優位性が証明されたものでもありません。

むしろ次に深掘りするなら、低ボラそのものではなく、低ボラが終わる条件です。tickが戻る、節目を抜ける、戻りが浅い、上位足の方向と合うなど、停滞から参加者が戻る瞬間をどう定義できるかが次の検証テーマになります。低ボラは入口であって、答えではありません。

この検証は、利用可能な過去データをもとにした観察結果です。データの欠損、時刻の扱い、集計条件、スプレッドや約定環境の違い、集計ロジックの不備などによって、結果が変わる可能性があります。正確性や完全性を保証するものではなく、将来の値動きや成果を示すものでもありません。売買を指示するものではなく、相場を見る視点を増やすための学習材料としてご覧ください。

関連して読むなら、環境分析と出来高の見方も合わせて確認してみてください。低ボラを「形」だけで見るのではなく、参加者の変化として見る助けになります。

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